T:『十八史略』	曾先之
V:01:巻一
B:03:五帝


C:03:01:少昊金天氏

少昊金天氏、名玄囂、黄帝之子也。亦曰青陽。
其立也、鳳凰適至。以鳥紀官。
K:03:01:少昊金天氏は、名は玄囂、黄帝の子なり。亦青陽と曰ふ。其の立つや、鳳凰適ゝ至る。鳥を以て官に紀す。


C:03:02:顓頊高陽氏

顓頊高陽氏、昌意之子、黄帝孫也。代少昊而立。
少昊之衰、九黎乱徳、民神雑糅不可方物。
顓頊受之、乃命南正重司天、以属神、火正黎司地、以属民、使無相侵涜。
始作暦、以孟春為元。
K:03:02:顓頊高陽氏は、昌意の子、黄帝の孫なり。少昊に代つて立つ。少昊の衰ふるや、九黎、徳を乱り、民神雑糅じて方物すべからず。顓頊之を受け、乃ち南正の重に命じて天を司らしめ、以て神を属し、火正の黎に地を司らしめ、以て民を属し、相侵涜すること無からしむ。始めて暦を作り、孟春を以て元と為す。


C:03:03:帝コク高辛氏

帝嚳高辛氏、玄囂之子、黄帝曾孫也。生而神霊。自言其名。代顓頊而立。居於亳。
K:03:03:帝嚳高辛氏は、玄囂の子、黄帝の曾孫なり。生れながらにして神霊なり。自ら其の名を言ふ。顓頊に代つて立つ。亳に居る。


C:03:04:1:帝堯陶唐氏

帝堯陶唐氏、伊祁姓。或曰、名放勛。帝嚳子也。
其仁如天、其知如神。就之如日、望之如雲。
都平陽。茆茨不剪、土階三等。
有草生庭。十五日以前、日生一葉、以後日落一葉。
月小尽、則一葉厭而不落。名蓂莢。観之以知旬朔。
K:03:04:1:帝堯陶唐氏は、伊祁姓なり。或は曰はく、名は放勛と。帝嚳の子なり。其の仁は天のごとく、其の知は神のごとし。之に就けば日のごとく、之を望めば雲のごとし。平陽に都す。茆茨剪らず、土階三等のみ。草有り庭に生ず。十五日以前は日に一葉を生じ、以後は日に一葉を落とす。月小にして尽くれば、則ち一葉厭して落ちず。名づけて蓂莢と曰ふ。之を観て以て旬朔を知る。


C:03:04:2:鼓腹撃壌

治天下五十年、不知天下治歟、不治歟、億兆願戴己歟、不願戴己歟。
問左右不知。問外朝不知。問在野不知。
乃微服游於康衢。
聞童謡。曰「
　　立我烝民　莫匪爾極　不識不知　順帝之則
」
有老人、含哺鼓腹、撃壌而歌曰「
　　日出而作　日入而息　鑿井而飲　耕田而食
帝力何有於我哉。」
K:03:04:2:天下を治むること五十年、天下治まるか、治まらざるか、億兆己を戴くを願ふか、己を戴くを願はざるかを知らず。左右に問ふに知らず。外朝に問ふに知らず。在野に問ふに知らず。乃ち微服して康衢に遊ぶ。童謡を聞く。曰はく、「我が烝民を立つるに、爾の極に匪ざる莫し。識らず知らず、帝の則に順ふ」と。老人有り、哺を含み腹を鼓し、壌を撃つて歌ひて曰はく、「日出すれば作し、日入れば息ふ。井を鑿つて飲み、田を耕して食ふ。帝力何ぞ我に有らんや」と。

C:03:04:3:封人

堯観于華。封人曰「嘻、請祝聖人。使聖人寿富多男子。」
堯曰「辞。多男子則多懼。富則多事。寿則多辱。」
封人曰「天生万民、必授之職。多男子而授之職、何懼之有。富而使人分之、何事之有。天下有道、与物皆昌、天下無道、修徳就間。千歳厭世、去而上僊、乗彼白雲、至于帝郷、何辱之有。」
堯、華に観る。封人曰はく、「嘻、請ふ聖人を祝せん。聖人をして寿富にして男子多からしめん」と。堯曰はく、「辞す。男子多ければ則ち懼多し。富めば則ち事多し。寿なれば則ち辱多し」と。封人曰はく、「天万民を生ずるや、必ず之に職を授く。男子多くして之に職を授けば、何の懼れ之有らん。富んで人をして之を分けしめば、何の事か之有らん。天下道有らば、物と皆昌え、天下道無ければ、徳を修めて間に就く。千歳世を厭はば、去つて上僊し、彼の白雲に乗つて帝郷に至らば、何の辱か之有らん」と。

C:03:04:4:堯帝の晩年

堯立七十年、有九年之水。使鯀治之。九載弗績。
堯老倦于勤。四嶽挙舜。摂行天下事。
堯子丹朱不肖。乃薦舜於天。
堯崩、舜即位。
K:03:04:4:堯立つて七十年、九年の水有り。鯀をして之を治めしむ。九載績あらず。堯老いて勤に倦む。四嶽舜を挙ぐ。天下の事を摂行せしむ。堯の子丹朱不肖なり。乃ち舜を天に薦む。堯崩じて、舜、位に即く。



C:03:05:帝舜有虞氏

帝舜有虞氏、姚姓。或曰、名重華。
瞽膄之子、顓頊六世孫也。
父惑於後妻、愛少子象、常欲殺舜。
舜尽孝悌之道、烝烝乂不格姦。
畊歴山、民皆譲畔、漁雷沢、人皆譲居、陶河浜、器不苦窳。
所居成聚、二年成邑、三年成都。
堯聞之聡明、挙於畎畝、妻以二女。曰娥黄・女英。
釐降于嬀汭。遂相堯摂政。
放驩兜、流共工、殛鯀、竄三苗、挙才子八元八愷、命九官、咨十二牧。
四海之内、咸戴舜功。
弾五弦之琴、歌南風之詩、而天下治。
詩曰「
　　南風之薫兮　可以解吾民之慍兮　南風之時兮　可以阜吾民之財兮
」時景星出、卿雲興。
百工相和而歌曰「
　　卿雲爛兮　糺縵縵兮　日月光華　旦復旦兮
」舜子商均不肖。乃薦禹於天。
舜南巡狩、崩於蒼梧之野。禹即位。
K:03:05:帝舜有虞氏は、姚姓なり。或は曰はく、名は重華と。瞽膄の子、顓頊六世の孫なり。父、後妻に惑ひ、少子象を愛し、常に舜を殺さんと欲す。舜、孝悌の道を尽くし、烝烝として乂めて姦に格らしむ。歴山に畊せば、民皆畔を譲り、雷沢に漁すれば人皆居を譲り、河浜に陶すれば、器苦窳せず。居る所聚を成し、二年にして邑を成し、三年にして都を成す。堯之が聡明を聞き、畎畝より挙げ、妻はすに二女を以てす。娥黄・女英と曰ふ。嬀汭に釐め降す。遂に堯に相として政を摂す。驩兜を放ち、共工を流し、鯀を殛し、三苗を竄し、才子八元八愷を挙げ、九官に命じ、十二牧に咨る。四海の内、咸、舜の功を戴く。五弦の琴を弾じ、南風の詩を歌ひ、而して天下治まる。詩に曰はく「南風の薫ぜる　以て吾が民の慍を解くべし　南風の時なる　以て吾が民の財を阜にすべし」と。時に景星出で、卿雲興る。百工相和して歌うて曰はく、「卿雲爛たり　糺縵縵たり　日月光華あり　旦復た旦」と。舜の子商均不肖なり。乃ち禹を天に薦む。舜、南に巡狩し、蒼梧の野に崩る。禹、位に即く。