T:『古文真宝』後集
V:08:巻之八
C:14:01:出師表	諸葛孔明（諸葛亮）


先帝創業未半、而中道崩殂。
今天下三分、益州疲弊。
此誠危急存亡之秋也。
然侍衛之臣、不懈於内、忠志之士、忘身於外、蓋追先帝之殊遇、欲報之於陛下也。
誠宜開帳聖聴、以光先帝遺徳、恢弘志士之気。
不宜妄自菲薄、引喩失義、以塞忠諫之路也。
宮中府中、倶為一体。
陟罰臧否、不宜異同。
若有作奸犯科、及為忠善者、宜付有司、論其刑賞、以昭平明之治。
不宜偏私、使内外異法也。
侍中侍郎、郭攸之、費褘、董允等、此皆良実、志慮忠純。
是以先帝簡抜、以遺陛下。
愚以為、宮中之事、事無大小、悉以咨之、然後施行、必能裨補闕漏、有所広益。
将軍向寵、性行淑均、暁暢軍事。
試用於昔日、先帝称之曰能。
是以衆議、挙寵為督。
愚以為、営中之事、事無大小、悉以咨之、必能使行陣和睦、優劣得所。
親賢臣遠小人、此先漢所以興隆也。
親小人遠賢臣、此後漢所以傾頽也。
先帝在時、毎与臣論此事、未嘗不嘆息痛恨於桓霊也。
侍中尚書、長史、参軍、此悉貞亮死節之臣也。
陛下親之信之、則漢室之隆、可計日而待也。
臣本布衣、躬耕南陽。
苟全性命於亂世、不求聞達於諸侯。
先帝不以臣卑鄙、猥自枉屈、三顧臣於草廬之中、諮臣以當世之事。
由是感激、許先帝以驅馳。
後値傾覆、受任せ於敗軍之際、奉命於危難之間。
爾来二十有一年矣。
先帝知臣謹慎。
故臨崩寄臣以大事也。
受命以來、夙夜憂懼、恐付託不效、以傷先帝之明。
故五月渡瀘、深入不毛。
今南方已定、兵甲已足。
当奬率三軍、北定中原。
庶竭駑鈍、攘除姦凶、以復興漢室、還于旧都。
此臣所以報先帝、而忠陛下之職分也。
至於斟酌損益、進尽忠言、則攸之、褘、允之任也。
願陛下託臣、以討賊興腹之效。
不效則治臣之罪、以告先帝之霊。
若無興徳之言、責攸之、褘、允等之咎、以彰其慢。
陛下亦宜自謀以諮諏善道、察納雅言、深追先帝遺詔。
臣不勝受恩感激、今当遠離、臨表涕泣、不知所云。

K:14:01:出師の表	諸葛孔明（諸葛亮）
先帝業を創めて未だ半ならずして、中道にして崩殂す。今、天下三分し、益州疲弊せり。此れ誠に危急存亡の秋なり。然れども侍衛の臣、内に懈らず、忠志の士、身を外るるは、蓋し先帝の殊遇を追うて、之を陛下に報いんと欲するなり。誠に宜しく聖聴を開帳して、以て先帝の遺徳を光いにし、志士の気を恢弘すべし。宜しく妄りに自ら菲薄として、喩を引き義を失ひ、以て忠諫の路を塞ぐべからざるなり。
宮中府中は、倶に一体たり。臧否を陟罰して、宜しく異同あるべからず。若し奸を作し、科を犯し、及び忠善を為す者有らば、宜しく有司に付して、其の刑賞を論じ、以て陛下平明の治を昭かにすべし。
宜しく偏私して、内外をして法を異にせしむべからざるなり。
侍中侍郎、郭攸之、費褘、董允等、此れ皆良実にして、志慮忠純なり。是を以て先帝簡抜して、以て陛下に遺せり。愚以為へらく、宮中の事は、事大小と無く、悉く以て之に咨り、然る後に施行せば、必ず能く闕漏を裨補して、広益する所有らん。将軍向寵は、性行淑均にして、軍事に暁暢せり。昔日に試用せられ、先帝之を称して能ありと曰へり。是を以て衆議して、寵を挙げて督と為せり。愚以為へらく、営中の事は、事大小と無く、悉く以て之に咨らば、必ず能く行陣をして和睦し、優劣所を得しめん。
賢臣を親しみ、小人を遠ざくるは、此れ先漢の興隆せる所以なり。小人を親しみ、賢人を遠ざくるは、此れ後漢の傾頽せる所以なり。先帝在ましし時、毎に臣と此の事を論じて、未だ嘗て桓・霊に嘆息痛恨せずんばあらざるなり。侍中尚書、長史、参軍、此れ悉く貞亮にして節に死するの臣なり。陛下之に親しみ之を信ぜば、則ち漢室の隆んならんこと、日を計へて待つべきなり。
臣は本布衣、躬ら南陽に耕す。苟くも性命を乱世に全うして、聞達を諸侯に求めず。先帝臣が卑鄙なるを以てせず、猥りに自ら枉屈して、臣を草廬の中に三顧し、臣に諮るに当世の事を以てせり。
是に由りて感激し、先帝に許すに駆馳を以てせり。後に傾覆に値うて、任を敗軍の際に受け、命を危難の間に奉ぜり。爾来二十有一年なり。先帝臣が謹慎なるを知れり。故に崩ずるに臨んで臣に寄するに大事を以てせり。
命を受けてより以来、夙夜憂懼し、付託の效あらずして、以て先帝の明を傷はんことを恐る。故に五月瀘を渡って、深く不毛に入る。今南方已に定まり、兵甲已に足れり。当に三軍を奨率して、北のかた中原を定むべし。庶はくは、駑鈍を竭し、姦凶を攘除し、以て漢室を興復して、旧都を還さんことを。此れ臣が先帝に報いて、陛下に忠なる所以の職分なり。損益を斟酌し、進んで忠言を尽くすに至つては、則ち攸之、褘、允の任なり。
願はくは陛下臣に託するに、討賊興腹の效を以てせよ。效あらずんば則ち臣の罪を治して、以て先帝の霊に告げよ。若し徳を興すの言無くんば、攸之、褘、允等の咎を責めて、以て其の慢を彰せ。陛下も亦宜しく自ら謀つて以て善道を諮諏し、雅言を察納して、深く先帝の遺詔を追ふべし。臣恩を受けし感激に勝へず、今遠く離るるに当たり、表に臨んで涕泣して、云ふ所を知らず。